属していたグループにも、居場所がなくなった夢子は、もうどうしようもなく自殺を決意した。


「……もう、なあんも残ってねぇな」


 自分の所有物は、全て焼却した。


「きっと死んだって誰も気付きやしねえ。…泣きやしねぇ。……後悔なんて」


 「ない」。きっぱりそう言いたかったのだけれど、あの日助けた男子生徒が「ありがとう、夢子さん」そう笑顔で言った男子生徒が、誰だったのか。自分はその生徒の名前すら憶えていなかったというのに、相手は覚えていてくれたなんて。それが、それだけが気がかりで。


「まぁ、…そいつには悪い事、したよな」

「そいつって、誰の事?」


 学校の屋上。鍵をかけたはずの屋上の扉が、なぜか開いている。


「僕の特技はピッキング…。なあんてね。昨日、ちょっと参考文献読んでたら、たまたま載っててさ」

「どんな参考文献だよ」

「プライベートな事は聞かないでくれ」


 ははっと笑ったその声の主は、あの日の男子生徒だった。

 振り向けば見た子のある笑顔で、夢子は驚いた。


「おまっ…えは…」

「ああ、名前言ってなかったよね。…僕は乙津翔汰。よろしく、東堂(とうどう)夢子さん」


 これから死のうと思っている人間に「よろしく」とは。なんとも鈍い男である。

 それにしても、1か月に教室に来るか来ないか程度の夢子のフルネームを覚えているとは。


「なんで…あたしの名前、…知ってるんだ」

「そりゃ、そうでしょ?だって、クラスメイトだよ?」


 さも、当たり前の事を何聞いているんだとでも言いたげな表情で、翔汰は言った。


「死のうとしてるの?」


 もうお前には関係ない、だから向こうへ行ってくれ。


 背中でそう言っても、翔汰は問いを続ける。