「はい。…そこまでして頂かなくても……ソファーで寝れるだけでも充分ですので………」

「そうはいっても…ねぇ?」


 頬に手を当てながら、牡丹は後ろにいる要次を振り返った。


「………好きにさせてやれ」

「…そぉ?」

「はい。…………ありがとうございます…。おやすみなさい……」

「おやすみ」

「…………Buonanotte.」

「?!」


 イタリア語と思われる発音が、要次の口から飛び出した。


「今……なんて…」

「…………寝ろ」


 その単語。

 どこかで聞いたことがあるはず……。耳にしたんだ……。

 あ。




 それは、中学のキャンプの時だった。
 
 廉と乙津兄弟の仲は、廉が転入して来た時の事を考えると、あり得ないほどに良くなっていた。


「おーし。寝んぞー」


 班長が部屋にいた班員に声を掛けた。


「うーす」

「うぃー」

「んああー、眠ぃ~」


 班員は各々、特殊な声を出しながら、寝袋に収まった。


「おし、全員寝袋に収まったなー?」

「おーす」


 バンガローの電気スイッチに班長が指をかけ、バンガロー内を班長は見回した。