「あぁ、そうそう。まだ自己紹介してなかったわね」

「あ、…その…」


 長居する理由もない。

 もうそろそろお暇しようと考えていたのだが、こうなると帰るに帰れない。


「こっちだけ貴方の名前知ってるなんて、嫌じゃない?と言うより、あたしが嫌なだけなんだけどね」


 ニコリと笑ったおばちゃんは、正座に座りなおした。


「あたしの名前は、朝日奈牡丹(ぼたん)。で、旦那の」

「………要次(ようじ)」

「おせっかいな夫婦だけど、よろしくね」

「…………うるせぇ」


 あぐらをかいていた足で要次は牡丹を蹴った。

 なんだかんだで、仲が良さそうだ。そしてなにより、人当たりが良い。近所付き合いが良いのも納得がいく。


「あの……そろそろ…」

「あら?もうこんな時間?」


 悠翔にかぶせて、牡丹が話す。

 時計に目をやった牡丹は、よっこいしょと立ち上がり、割烹着を身に纏った。


「晩ご飯も食べて行ってちょうだいな」

「え…あ…」

「…………食ってけ」


 悠翔は戸惑ったまま、トントン拍子に事が進んで行った。

 更にトントン拍子に拍車がかかり、最終的に悠翔は、朝日奈家に泊まる事になった。


「何から何までありがとうございます。………ご迷惑ばかりおかけして…すみません………」


 寝巻は要次の使わなくなったシャツとズボンを借り、ソファーで寝る事になった。


「でも、ほんとにソファーでいいの?」