直立不動なまま、悠翔はコクリと頷いた。


「なら、やっぱりね。中学の最初の時は仲があんまり良くなかったんです、とか。1番最初なんかケンカ吹っかけられましたからね、とか。音乃さんといる時とはまた違う、嬉しそうな顔をしてあたし達ジジババ夫婦に話してくれたわよ」


 雨が酷くなってきた。

 悠翔の頬から、雫が1つ、1つ、また1つ。

 
「あら?」

「すいません……」

「…ふふっ。いいのよ?……さぞ、楽しい青春を過ごしたのでしょうねぇ」

「………っく、はぃ…」

「…家へいらっしゃい?こんなとこで立ち話してたら、身体冷えちゃう」


 図々しいと、断ろうとしたのだが、声が上手く出ず、そのままおばちゃん家へ入れてもらった悠翔の頬は、雨ではない水滴が濡らしていた。




「はい。こんなものしか出ないけど」


 丸く収められ、悠翔はおばちゃん家の風呂まで借り、旦那さんの寝巻まで借りて、更には夕飯まで御馳走になる始末である。


「すいません……」

「いーのよぉ。狭いかも知んないけど、ゆっくりしてって。ねぇ、アンタ」

「…………あぁ」


 寡黙な旦那さんなのか、ジッと悠翔を見つめ、ギリギリ聞き取れるくらいの低い声で言った。

 少し、怖い。


「ありがとう……ございます…」


 消え入りそうなその声は、まだ虚ろ感が残っているものの、少しだけマシになったのではないだろうか。


「………謝ってばかりだと、気持ちまで重くなる。…明るくいろ」

「そうよ?さっきも言ったけど、廉さんから聞いてた貴方のイメージに似合わないわ?」


 新聞から顔を上げる事もせず、旦那さんはまた低い声で悠翔を励ました。