「音乃さんもねぇ」


 おばちゃんが声を低く、小さくした事から、もうだいたいの予想はついた。


「家で亡くなってたの」


 どうやら、音乃は家で首をつって死んでいたらしい。

 旦那が死んだから自分も死ぬと思い、自殺する妻も少なくはないらしい。

 警察はそう考え、深く追及はしなかったそうだ。


「そうです…か」

「警察の人は自殺だ、って言ってたんだけどねぇ。あたしにはそれが気がかりでねぇ」

「気が…かり…?」


 踵を返そうとした悠翔は、勢いよく振り返った。


「えぇ。音乃さん、『彼の分も絶対長生きします!』って、こないだ言ってたのよ。なのに…ねぇ?自殺なんて…」


 カレノブンモゼッタイナガイキシマス。


「あの…」


 眉尻を下げて、ブツブツ言っているおばちゃんに、悠翔は遠慮がちに聞いた。


「その…、音乃さん?の写真とか……あったりします…?」

「え?写真?」

「あ、いや…その、何でも…」

「あるわよ?」


 俯いてモゴモゴ喋る悠翔と打って変わって、おばちゃんはきっぱり言い切った。


「ちょっと、待ってて~。あ、はい、コレ」


 近くの家がおばちゃんの家だったらしく、バタバタとそこへおばちゃんは駆け込んだ。

 シーンと静まった後、家からガタンッと何かが落ちる音がして「ぁいてっ!」とおばちゃんの声が聞こえた。

 雨は降り続ける。

 傘も差さない悠翔は、おばちゃんに無理やり渡された傘を片手に突っ立っていた。