「いやー、長い旅路だった」

 
 悠翔はそう言いながら、自分の席に着いた。

 まだ、廊下はキャーキャー黄色い声でまみれている。


「ヤベェ。耳がキンキンすらぁ…」

 
 と、自分の右耳を押さえ、顔をしかめるのは尋翔だ。

 廉はというと、自分の席が廊下側なのを良い事に、女達にウィンクや投げキス等を飛ばし、何人かの女を失神させている。


「おめぇ、そんぐれぇにしとけよー」


 尋翔は呆れ顔で廉に声を掛ける。が、廉はそんな尋翔にさえ、ウィンクを飛ばした。


「うぉぇっ…」


 効果はバツグンだ。

 尋翔は真っ青になりながら、自分の口を押えた。
 
 と、そこで予鈴が鳴った為、黄色い声達が自分の教室へと入って行き、廊下は静かになった。


「あー、うるさかったわー」


 ケータイを弄りながら、悠翔が言う。

 尋翔は次の時間の予習をしている。ちなみに、英語である。

 廉は大きな欠伸を1つし、机に突っ伏して、寝る準備を整えだした。


「…ねー、悠ちゃん尋ちゃん」

「その呼び方やめろ」


 2人の声が重なる。


「え。じゃぁ、悠ぽん、尋ぽん?」

「てめ、地獄に突き落とすぞ」

「ざけんな、てめぇ」


 きょとんとする廉に、同時に2人は違う言葉を発した。


「ふざけてないし、地獄に突き落とされたくないし」