そのまま、どれくらい時間が経ったのだろう。

 意識が完璧に飛んでいたらしく、監督に電話を掛けたところから、何をしていたのか、思い出す事が出来ない。

 水玉模様はなくなっている。

 右手にケータイを持ったまま、寝ていたようで、右手だけに感じる僅かばかりの重さに目を落とす。

 着信が数十件。


「………」

 
 確認する気が湧く訳が無く、曲げた右ひじを元に戻す。

 憂鬱な眼を、空に彷徨わせる。

 と、何を思ったのか、悠翔は立ち上がった。

 部屋着のまま、だぼだぼのスウェットのポケットに右手に持っていたそれを突っ込んで、ちゃんと靴を履かずに玄関のドアノブを捻った。

 
「……」


 一旦振り返り、虚ろな眼のまま、今まで自分がいた空間を見つめる。


「…」


 鍵もかけず、ドアを閉める。

 パタンと、なんの躊躇いも無くドアが閉まり、悠翔は1歩踏み出した。

 目の前は、まだ午前だというのに暗く、空から小さな雫たちがカーテンを作り出している。

 悠翔は、マンションの階段の手前まで黙々と歩いたが、寸でで足を止め、通路を振り返る。

 視線の先は、自分の部屋の左隣。

 
「……悪ぃな」


 誰に対する罪悪感か。それは、自分でもよく分からなかったのだが、悠翔はその言葉を口にすると、階段を降りた。