「あ………監督……?」


 変わってここは、悠翔の部屋。

 虚ろな眼の悠翔は、今日、撮影があるはずだったドラマの監督に、連絡を取っていた。

 
「あの…、今日……調子…悪くって………勝手ですけど、お休みもらってもいいですかね………?」


 もう、事務所には連絡は取ってある。

 
『あー。事務所の方は?』


 もう、何回目だろうか、悠翔は同じセリフを右耳に受けた。そして、こちらもまた、同じセリフを悠翔は口にした。


「はい…。許可は得ました……」

『うん、そっかそっか。了解。じゃぁ、今日は出来るだけ、乙津くんの出番がないトコ、撮っとくね』

「はい、………すいません。…ありがとう、ございます………」

『うんうん。オッケーだよ~。乙津くん、最近スケジュールがギチギチだって聞いたからさ。言い方アレだけど、今日はゆっくり休んで?』

「すいません………。ご迷惑おかけします…………。失礼、します…」


 これで、最後の電話だったのか、悠翔は通話終了ボタンに触れると、ソファーの背もたれに深くもたれ、瞳を閉じた。


「………っ、くそ……」

 
 ケータイの液晶を見つめる。

 液晶に映るのは、廉の笑顔だ。

 飲みに行った時、隠し撮りしたそれは、今までにない廉の最初で最後の笑顔。

 もう見れないのかと思うと、途端に溢れ出す雫。留まる事を知らないそれらは、悠翔の頬を伝い、着替えたグレーの部屋着に、水玉の模様を作った。