「はい、カットォ!」
「お疲れ様でーす」
「お疲れーす」
様々な声が飛び交う中、男―――乙津悠翔(おきつゆうと)は、1つ大きな欠伸をした。
「乙津くん、乙津くん」
後ろから声を掛けられ、悠翔は振り向いた。
「あ、監督。なんでしょう?」
「いやぁね。毎度毎度乙津くんの演技には感嘆するよ」
「ありがとうございます」
「それでね、次のドラマの主演なんだけどさ」
「はい」
「やってみない?と、思って」
「あぁ、どんな役柄ですかね?」
「うんとね…簡単に説明するとだね…」
簡単にとかなんとか言っておきながら、監督はグダグダ遠まわしに説明を続ける。
「っていう、役なんだけど」
どうやら、純愛モノのヒロインの彼氏役らしい。
「そうですね……。一応、考えときますね」
「うん。是非やってくれると嬉しいな」
「はい。分かりました。それじゃ、ぼくはこの辺で…」
「うん。お疲れ~」
「お疲れ様です」
監督に別れと告げると、悠翔は私服に着替えてテレビ局を出た。