女の叫び声がこだまする。


「やめてっっ!!」

「何を~?」


 厭らしい笑顔を顔に張り付けた男は、ニタァとその顔を更に歪ませる。


 もっと……もっとだ…。もっと、恐怖に満ちたカオをして…?


 男は持っているそれに、加えていた力を、少しだけ弱める。

 そうれば、持っているそれはズルリと、下へ少しだけ、ほんの少しだけずり落ちる。


「やめてぇっっ!!」

「あははっ」


 ここは、屋上。

 78階建の高層ビルの屋上。

 ヒュオ…と風が、彼らの間を摺り抜ける。

 男は屋上から、片手を突き出して立っている。

 女は、男から大分離れた位置に、膝立ちしながら泣き喚いている。


「お願いだからぁぁっ…!!」

「ん~?聞こえな~い。ふふっ。……あははっ。あははははっっ!」

「その子だけはぁ……その子だけは止めて……」


 懇願する女を傍目に、男は持っていたそれ―――少年の腕に視線を移す。


「これが、そんなにいいかねぇ…」


 少年は深く眠りについているようで、スースーと息を立てて瞳を閉じている。


 解らない…。理解しかねないね。…まぁ、したくもないのだけれど。


 パッと手を離すと、垂直に少年は落ちて行った。


「やめてぇぇぇえぇぇぇぇええええええっっっっ!!!!!」

「五月蠅いな」


 男は颯爽と女の横を通り、屋上を後にした。