「ねぇ、悠翔。………この世に不必要な人間なんて存在しないんだよ?」

「……」

「例え、それがヤクザだろうと、犯罪に手を染めてる人だろうと、死ねば必ず誰かが哀しむ」

「……」

「不必要な人間なんて、モノなんてないんだよ?」


 幾度となく、

 
 『死にたい。』


 そう思った悠翔を慰めるように、尋翔は続ける。


「俺もね、人間ってなんて脆いんだろうって思った事があるんだ。それは、自分が人をたくさん傷つけてきた事があったからだし、たくさんの本にそう書かれているから」


 読書好きの尋翔らしい言葉だ。


「だから、脆いから、人間は人間でいられるんだ。動物や植物には感情がない。でも、人間にはある。それはとてつもなく素晴らしい事で、プラスな事。でも、たまに思う。……感情が無くなってしまえば、…って」


 数センチ高い兄の泣き顔を覗き込みながら、尋翔は続ける。


「人間てさ、比べることが大好きなんだ。あの子と比べて、この子に比べて…。それで傷つく人間がいるって事にも気付かずにね。…十人十色なのに」


 みんな違ってみんないい…じゃないの?

 
 なぜ、比べるのか。
 
 なぜ、批判し、優劣をつけるのか。

 不思議でたまらない。

 だから、黒人差別やらいじめやらが起こるのだ。


 誰に利益があるの?残るのは、不利益と傷ついた人だけじゃないか。


「死にたい、だなんて思わないで。…思った事、ある?」


 コクリと悠翔は頷いた。


「もう思わないで。絶対。ね?約束」

 
 尋翔は、むりやり悠翔の小指に自分の小指を絡めた。