「尋翔くんって、しっかりしてるわよね」

「どっちが兄貴かわかんねーな」

 
 さんざん言われてきた言葉を、淡々と右から左に受け流すのは日常。


「悠翔…」

「あ?」


 兄の悠翔は、小学校6年くらいから、暴力沙汰に巻き込まれるようになった。


「てめぇ…。俺を踏み台にしてここまで来た気持ちはどうだよ?」

「そんな事…思って…」

「てめぇのそういうトコが大っっ嫌いなんだよ!気付いてんのか、この薄らハゲ!!てめぇが面倒見いい性格のおかげで、こちとらだらしねぇみてぇなレッテル張られてよ!八ッ、まぁ事実だけどよ!」


 完璧なる八つ当たりであると、冷静な今の尋翔なら反論したであろうが、この時の尋翔は出来なかった。

 目の前で、兄が叫びながら泣いていたから。


「みんなみんな、お前ばっかでよぉ!出来の悪い兄の下につくのは出来のいい弟?!………なりたくてこんなんなったわけじゃねぇのに…クソッ…!」

「悠翔…ねぇ…ゆ、」

「なぁ、俺、俺…さぁ、お前みてぇになりてんだよ…。なれっかなぁ…なぁ…?」


 涙ぐみながら、悠翔は尋翔の言葉を遮って、気持ちをぶつけた。

 出来のいい弟持った。

 それは自慢出来る事。

 でも、皆出来のいい弟しか見てくれない。

 自分は不必要なのだろうか。

 特に成績がいい訳でも無く、むしろ逆な自分はこの世に存在する意味があるのだろうか。


「どうしたら、周りが俺を見てくれんのかなって考えてたらさぁ、もう…こんな事しか出来なくてさぁ…。後戻りできなくてさぁ…。得意な事ってケンカ?ぐらいしか思いつかねぇしよぉ…」


 俺って、必要なのかなぁ…………………?


 悠翔は、顔を上げて尋翔をまっすぐ見つめた。