尋翔は悔しさと一緒に涙をのみ込むと、真っ直ぐ悠翔の顔を見た。


「ねぇ、悠翔。………この世に不必要な人間なんて存在しないんだよ?」


 存在するとしたら、俺かもね。

 たくさん…たくさん、悠翔を見えないところで傷つけた。

 身体的にも、精神的にも。

 ごめんね。…本当に、ごめんね…?


 言いたいことはたくさんあった。

 それよりも、伝えたい事は、もっとたくさんあった。


「例え、それがヤクザだろうと、犯罪に手を染めてる人だろうと、死ねば必ず誰かが哀しむ」


 例え、悠翔が人を殺したとして、そんな悠翔が死んでも、俺は泣くよ。

 還って来てって。


「不必要な人間なんて、モノなんてないんだよ?」


 悪い心でさえ、人間には必要な部分なんだ。

 それが無くなる事はないから。

 そんな部分もひっくるめて、俺は悠翔に憧れるから。


「俺もね、人間ってなんて脆いんだろうって思った事があるんだ。それは、自分が人をたくさん傷つけてきた事があったからだし、たくさんの本にそう書かれているから」


 ついさっき、本当に心から思った事だ。

 本に書かれていたという事は、5割ほど嘘である。

 確かに書かれていたとは思うが、はっきりとは覚えていない。

 ただ、自分の言っている事の裏付けのようなもの。


 ああ、俺は、また、バカみたいに、自分を、悠翔を騙してるね。


「だから、脆いから、人間は人間でいられるんだ。動物や植物には感情がない。でも、人間にはある。それはとてつもなく素晴らしい事で、プラスな事。でも、たまに思う。……感情が無くなってしまえば、…って」


 人間から欲が無くなる事はあり得ないだろう。

 それでも、そんな人間らしい人間が好きだから。そんな悠翔が好きだから。