悔しさで俯いてしまった顔を、上に向けると兄が、悠翔が泣いていた。


「みんなみんな、お前ばっかでよぉ!出来の悪い兄の下につくのは出来のいい弟?!………なりたくてこんなんなったわけじゃねぇのに…クソッ…!」

「悠翔…ねぇ…ゆ、」

「なぁ、俺、俺…さぁ、お前みてぇになりてんだよ…。なれっかなぁ…なぁ…?」


 その時、尋翔は気付いた。

 
 ああ、人間って…。脆い生き物だなぁ。

 
 あんなに大きく見えた兄は、もうこんなにも不甲斐ない程に小さい。

 
 どうして。母さんも父さんも、悠翔の事、好きだよ?1日に1回は、悠翔の話、するよ?気付いてないの?


 君はこんなにも愛されてるんだよ?


 そんな事、兄に言えるはずがなくて。

 気付かない悠翔に少しだけ、苛立ちが募った。

 むしろ、自分の方が愛されていないのではと思う事があった尋翔から見れば、どれだけ恵まれているのか、それに気付ない悠翔は、贅沢だと。

 いつも、兄と比べられ、そうして、評価される。

 もし、兄がいなければ。

 もし、兄が秀才だったら。

 ああ、考えたくもない。



「どうしたら、周りが俺を見てくれんのかなって考えてたらさぁ、もう…こんな事しか出来なくてさぁ…。後戻りできなくてさぁ…。得意な事ってケンカ?ぐらいしか思いつかねぇしよぉ…」


 皆、悠翔の事、見てるよ?
 
 良い方に見てるとは限らないけれど、確かに皆、悠翔の事、気にかけてる。


 それなのに。

 
 どうして、気付かないの。

 どうして。

 俺は、悠翔の事。


「………大事に思ってるのに。気にかけてるのに」

 
 そんな叫びは、兄の耳には入らなかった。