「なんにせよ、僕たちには、何かしらの縁があったんだよ」


 後ろで腕を組んで、翔汰が言う。

 少し、嬉しそうだ。


「君が生まれて来てくれた事も、僕と出会ってくれた事も、兄貴と顔見知りだった事も、悠翔と尋翔を生んだ事も、今日の事も………。全部、偶然で必然なんだ」


 夢子にはよく意味が解らなかったが、そのまま翔汰の話に耳を澄ます。


「僕は、自分の犯した罪を全て兄貴の所為にして来た。兄貴が、兄貴だって…。そんな言い訳を盾に、全部。そして、兄貴が嫌いだった。でもね、君と出会って、そんな兄貴でさえ、ああ、いいヤツだなって思えた。少しだけ、少しだけだけど、兄貴の事が好きになれた。…気がする」


 翔汰の兄も、翔汰の事は、好きではなかった。


「ねぇ、夢子…」

「ん?」


 夢子の目の腫れも、少し引いてきた。


「今日、何の日か知ってる?」

「え?」


 だが、まだ鼻声だ。


「ふふっ。…やっぱし、覚えてないんだね」


 翔汰がそう笑ったところで、家に着いた。


「さぁ、家に着いたよ」


 翔汰は、ニヤニヤしながら、玄関のドアを開けた。


「母さん!」


 ドンっと、何かが夢子にぶつかった。

 何か。

 それは。


「尋翔…!」