「ゆう………っと…!!」


 夢子は、グシャグシャになったその顔を、隠す事も拭う事もせず、悠翔を目を見開いて見つめた。


「何泣いてんだよ。恥ずかしい」

「こら!悠翔くん!」


 ポケットに手を突っ込み、明後日の方向を見ながら、口を突き出した悠翔がボソッと呟いた。

 過剰に反応する担任は、悠翔と合わない性格だろう。

 叱りつける先生を片手で制した翔汰は、言葉を紡ぐ。


「悠翔。……やるなら徹底的にやれ。…半端な真似したら許さねぇ」


 微笑みながらそう言った翔汰。

 表情も声色もいつものままなのに、口調がガラリと変わっただけで、何故こんなにも背筋が凍るような空気になったのだろうか。


「っ」


 聞いたこともない親の喋り方に、流石の悠翔も言葉が詰まる。


「聞いてるよな。……お前が俺らのことどう思ってるかは知らねぇ。…特別、お前に俺らの気持ちを伝えようとも思わねぇ」


 翔汰はやはり、微笑みを口元に湛えたままである。


「好きなようにやれ。…その分、下らねぇバカな事やって、お前がどうなろうと知ったこっちゃねぇ。責任取る気もさらさらねぇ」


 『下らねぇバカな事』。

 安易に想像がつく。


「解ったら出てけ」

「……わあったよ」


 踵を返した悠翔は、パタムと応接室のドアを静かに閉め、出て行った。