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「……ちょっと椎菜?おはし止まってるわよ?」


「……え、ああ、ほんとだ」



私はおもむろに茶碗を持ち
白ご飯をかきこんだ。


あれから私は伊織くんと一緒に教室に戻ったあとは、いつも通り、1人でいた。


伊織くんがまた話しかけてくれるかも……なんて、ちょっとは期待したんだけど。

そんなことはなかった。



なんでわざわざ保健室まで来てくれたんだろう。



ああいうふうに私のことを気にしてくれる人なんて、ほんとに久しぶりに会った。




帰ってからは伊織くんのことばかり考えている気がする。





………ピロンピロン


テーブルの上にある私のケータイが鳴った。


”あず”


ケータイにはその二文字。



メッセージを見てみると、

”ちょっと今から喋らない??”



あずは、私の中学の頃の仲良しの友達。



集まりのお誘いだった。


するとすぐにまたケータイが鳴った。

映し出された文字は"梨子"。


"いいよー!椎菜はいけるー?"


梨子もあずと同じくらい仲良しの友達。

中学のころいつもこの3人は一緒だった。
高校で離れてしまったけど……。

この2人は唯一心を許せる友達だ。


"今ごはん食べ終わったしいけるよ〜!"

そう返事すると、あずから"じゃあ私んち集合ね!"と来た。


やったぁ!2人に会える!

前に会ったのは2週間前だから久々だ。

それにしても、学校が離れても仲良しでいれる友達がいるっていうのは心強い。



「おかあさん!あずと梨子に会ってくるね!ごちそうさまでした!」

「あ、ちゃんと食器運んでってよね〜?」

「はーい!」


私はガタガタと席を立って
食器を運び終えると、急いで2階の自分の部屋に向かった。


適当に外用の服に着替えて
ケータイだけを持ってあずの家に行った。





………………………


……………


……



「あーもう学校やだ休みたい〜…」

ベッドに大の字になって言っているのは梨子。


「ちょっと私のベッド勝手に寝転がらないでよ!お風呂入ったの?!」

「お風呂入ったってー、ほんと潔癖だなぁ」



あずはすごく潔癖で
お風呂に入っていない人が自分のベッドにいるのを嫌がる。

私たちでさえも。


いつもと変わらないやりとりにほっこりしながら、私も学校休みたいーと私がつぶやくと

2人はぶっと吹き出した。



「いや、椎菜が言ったらリアルだから!!」

「梨子らはちゃんと友達いるから!そろそろ友達作りなよ!」


2人はケラケラと笑いながらそう言う。

梨子とあずは私と違って
社交的だから当たり前のように友達がいる。


「だってー、楽しくなる自信ないんだもん。」

「ばかー、今1人でいて楽しいわけじゃないでしょ?友達できたら、何か変わるかもしれないよ?」


あずのこの言葉に梨子が、うんうんとでも言うようにうなずく。


……たしかに。


中学のころも、この2人と仲良くなる前はつまんなかったけど、喋るようになってから学校生活変わったなぁ。


「まぁ、無理に友達作れとか言ってるわけじゃないから!なんか楽しみになること作りなよ!」


「楽しみになること?」


たとえば?と私が頭を傾けると、2人は手でハートマークを作り、


「「恋♡」」


「こ、恋?!滅相もない!とんでもないよ!私だよ?!」


「なに言ってんのよー!高校生だよ?恋しなきゃ!」





恋か………

友達さえいない私が恋なんてできるのかな。


梨子には5ヶ月前から彼氏がいる。
あずには入学してからずっと片思いしている相手がいる。


そんな2人の姿を見て
"うらやましい"と思うことがないわけではなかった。