ざわめく 周りに どうして

こんなことに なってしまった

エンジンは停止したまま

歯車は空回りを続けて

オレ達の 総長は 最強 で

最高 の 男 だった のに

なあ どうして アンタは


中学で野球に熱中して

見事に挫折した 最後の夏

高校に入って 一匹狼ごとく

学校という社会をさまよっていた

オレに 手を差し伸べた アンタは

いつだって 自信に満ちあふれて

愛があった 何に対しても 誰に対しても

威張りはせずに ただ静かに

ついてくるんなら 勝手にしろと

平岡竜児の その背中は いつだって

追いかけるために


オレ達下っ端が バカやって

アンタは 右腕のユウミさんと 静かに

笑って オレ達とはどこか違う 空気が

ユウミさんとの間には あった

頭の良いユウミさん 長い付き合いらしい

最後に頼るのは いつだってお互いだけ

そんな二人にも オレ達はあこがれた


始まりは突然

お前らに会わせる 前置きは

そんな感じだった 思えば

新しい仲間を紹介する時は

ユウミさん以外にも 少なからず誰かが

知っていて その人物を


ユウミさんが「本気かよ」呟いた

オレ達は誰一人 把握していなかった

いつもは 突然ではなく 近々 と

事前に聞いていた それなのに

もうその人物を 連れてきているらしい

アンタは 普段と何一つ変わらず

招き入れた


ユウミさんのため息と ともに

現れた 女 は

とても 美人 の 中 の 美人

とでも言えばいいのか この頃まれに見る

ほどの キレイな人 だった


オレ達はただ声もなく 女を見ていた

鎖に縛られたように 動けずに


今まで総長が 女を紹介したことはなく

強面な印象 それでも総長はモテた

そして それに見向きもしない それが

アンタだった なあ そうだろ?

ここまでだったら

絶世の美女と相思相愛 最強に最高な

アンタのままだったのに


「たっちゃん」 女は楽しそうに

アンタをそう呼んだ 苦笑いをしながら

応える まるで敵わない というように

やめてくれ 諦めたような そんな

アンタの弱味は 知りたくなかった


やめろよ 呆れたように言う

ユウミさん「誤解を招く」 どうやら

普段は名前で呼んでいるようだ

それに少し安堵し でも呼び捨てだと

考えただけで また肩に力が入る


女は とても楽しそうに「ユウミちゃん」

オレ達がタブーとしていた呼び方を

口にして にっこり笑った

眼を見開いて驚きとも恐怖ともつかない

オレ達をよそに その言い方はやめろって

眉をひそめながら 諭すように


愕然とするオレ達 女は

口元の笑みを更に深くして

「いいの?」 問いかけた 「全部?」

質問の意味も答え方も知らない

オレ達に 近づいて

「ダメに決まってんだろ」

ユウミさんが呆れたように

「程々にな」

苦笑いする総長を 軽く睨んだ


女はオレ達の周りを 観察するように

歩き ひとりひとり 確認するみたいに

オレ達の視線は女を追って

どうしていいかわからず


「あ」 不意に小さく響いた女の声

それは 「蒼史」 ふたつめには

甘みを帯びていて

蒼史さんの眼は

真っ直ぐ女に向けられていた


女は宝箱でも見つけたように

駆け寄って

「蒼史。あいたかった」

蒼史さんの 肩に 手を置いた

途端に殺気立つ オレ達を

「邪魔したらユウミを女の子にするから」

平然と振り向いて言い放った 言葉

「それは嫌だな」 なんでもないこと

みたいに ユウミさんが呟いた


困惑するオレ達に 見せつけるように

蒼史さんに 顔を近づけて

ねえ 「蒼史」

手を 蒼史さんの手 を とって

女の頬に もう一方は 指を 絡ませて

囁く 息を 吹きかける ローソクを

消すみたいに 優しく 撫でるみたいに

「さいかい の よろこび、に」

蒼史さん の 唇 に 囁く ささやく


あいだがなくなって つながる

きえたすきまを さがすように

オレはずっと 祝福のキスを 見てた


女の 首 に 蒼史さんの 指先が

肌に 沈んで 耳から すくうように

うなじに そえられた 手