教室のすみっこの席に いつも

すわって本読んでる 中山くん


小柄で 色白 華奢な身体つき

黒ぶちの重そうな眼鏡と 長めの前髪で

あんまり顔がはっきりしない

はっきり言って 陰キャラ


話したことはあるけど おぼえていない

あたしの中では それくらい

存在がうすい きっとみんなそう


この前 中山くんが

カツアゲされてるのを見た

身長の高い 力のありそうな

男の先輩たちにかこまれて


そのとき あたしはひとりで

まわりに誰もいなくて

助けなくちゃと 思ったけど

こわくて近寄れなくて

その場から 立ち去ることもできなくて

ただただその光景を 見てた


男の先輩たちが 中山くんに

更につめよって うつむいた

肩がふるえてる 中山くん

ひとりの先輩が 中山くんのポケット

手を入れて きっと財布を探してるんだ


あたしが息をのんだ その瞬間

財布を探してた先輩が たおれて

黒い かげ が 中山くんの前に

あらわれた 


ひとりの女生徒 たぶん先輩

中山くんを かばうようにして

立って あたしの所までは

聴こえなかったけど とても


とても 冷たい 眼 を して

とても 綺麗な 顔 を して


なにか 言った


どこからあらわれたのか と思えば

中山くんが 背中をつけてた

壁の 窓から ふってきたのか


気づけば

そこに男の先輩たちはいなくて

中山くんと 女の先輩 だけ


黒い ふたりの制服と

白い ふたりの 怖いくらいに白い

ふたりの 肌が

おたがいを 白と黒 を

きわだたせて


女の先輩が 中山くんの 頬を

両手で つつんで やさしく

やさしい 手つきで 撫でて


中山くんと ぐっと 顔を 近くして


そのとき ふと静かになった

女の先輩の声が 聴こえた

「私以外の手が触れた汚物」

あたしは目をみひらいた

はっきりと そう 聴こえた


「もう触ってあげないよ?」


その顔 は

黒い 髪 から のぞく その 顔 は

ぞっ と する

くらい 綺麗 で とても

うつくしい 笑み で


最初はゆっくりと あとずさり

夢中でかけだした あたし


だって 絶対 みてはいけないもの

みてしまった ああ だって


女の先輩をみつめる

女の先輩から眼をそらせない

中山くんは 中山くんの 身体 は

ふるえていた とても

おびえているように


でも だけど それ以上に

うれしそうに ふるえていた