デイジー

俺たちの練習室は地下にある。

一応事務所にもあるけど、ツアー前の最終確認やらそんな程度しか使ってない。

ほとんど地下の練習室ですることが多い。

何でって?

そりゃあ、面倒なんだよ…

事務所の練習室まで移動すんの。

移動時間もったいないし。

ずっとここで練習してきたから安心感もある。

もちろん簡単な録音機材もあるし。

デモくらいならここで十分作業できる。

まあ、恵まれてるなって思う。

親が音楽やってたおかげで、家の防音は完璧だし、スタジオまである。


音楽やるには十分な環境。




その防音扉の向こうを覗くと、一足先におりていた光希がベースを肩にかけて座っていた。

多分チューニングしてるんだろう。

何かを探るような目が、遠くを見つめていた。

その目がさ、なんとなく哀しそうで…

目が離せない。

それは俺だけじゃなく、一緒に降りてきた二人も同じだった。

いつも通り入って行けば、光希の哀しそうな顔を消すことができたのかもしれない。

だけど、そんなことができない。

そんな雰囲気だった。


「なんかさ…入りづらいんだけど…」


振り返る俺に、啓太が薄く笑う。


「いつもは気にしないのに。今日に限って鋭いじゃん。…じゃあさ、先に片付けしてこようか…少し、一人にしておこう…」


俺たちはたった今降りた階段を、音を立てないようにそっと戻った。



仕事もプライベートも、ずっと一緒にいるから、一人になることが少ない。

それが時には煩わしかったりするんだけど、何だかんだと言いながら、結局は一緒にいる。

こうやって一緒に住むようになって…3年…か?

でも、その前からここに集まることが多くて、ほぼここで生活してるようなもんだったから、家族より長い時間一緒にいるんだよな。

辛い時も、結局は一緒にいて…

時々、こうやって一人の時間を作る。

俺たちはそうやって今までやってきた。