いきなりの登場にウィルは部屋の隅まで逃げて行くと、此方に来るなという視線をアルンに向ける。
「帰ってきたのなら、挨拶くらいしろ」
「兄貴とは、毎日のように顔を合わせているし」
「兄弟というものは、毎日のコミュニケーションが大切だ。それをお前は、忘れたというのか」
「いや……あまりしたくないな」
正直、それが本音であった。このような煩くしつこい兄とコミュニケーションを図ろうものなら、平穏な毎日が失われてしまう。そしてブラコン度数が更に増し、自由がなくなるだろう。
そうなってしまったら、ウィルは生きてはいけない。
何より、束縛を嫌っていたからだ。
「この世に残った、たった二人の兄弟だぞ」
「父さんと母さんは、生きているって」
「いまだに、新婚ボケをしている両親はいい」
「それ、言いすぎ」
自身の両親に向かって「新婚ボケ」とは、アルンしか言えない言葉であった。だが、その言葉は意外にも適切なもので、自分達の子供をほったらかしにして、二人はリゾート地に建設した別荘で暮らしている。お陰でウィルを世話したのは、年配のメイド達といっていいだろう。
アルンは傍観者と同然であり、世話をしていない。しかしアルンにしてみたら「ウィルを世話したのは自分」となる。押し付けがましい感情に、ウィルはますます距離を取ってしまう。
久し振りに両親から手紙が送られてきた。書かれている内容といえば、毎日の楽しい生活の話。
子供の心配は、していない。そのことにアルンは腹を立てているのだろう、八つ当たりはいい迷惑である。
「元気だから、いいと思うよ」
「だが、親としての責任は取っていない」
「そ、そうだけど……」
言葉ではそのように言っているが、ウィルはアルンの本音を知っていた。アルンにしてみたら、両親が帰宅しない方がいい。もし帰宅した場合、口から砂を吐くほどの“惚気”を言うからだ。
ウィルは“惚気”がはじまったと同時に逃げ、アルンは逃げずに最後まで聞き続ける。流石に長男としての自覚があるのだろう、それは立派なことであるが褒めることは決してない。


