これが噂にならないわけがない。あのラヴィーダ家の次男が、飛竜に向かって説教をしているのだから。誰も止める者はいない。ウィルが発するオーラに恐怖を感じ取ったのだろう、止められる要素などはない。しかし、本当は違った。真の意味でいえば、観察するのが楽しい。
何だかんだで、兄弟はそっくりだったりする。それに、滅多にこのような光景を見ることはできない。
だからこそこの機会とばかりに、人々の視線を集める。こうなると、一種の見世物であった。
「……帰る」
一通りの説教を終えて気分が落ち着いたのだろう、ウィルはディオンを置いて帰ろうとしていた。するとディオンは置いていかれまいと、必死に後をついていく。飛竜なのだから飛んでいけばいいと思われるが、ディオンは何を思ったのか、徒歩でウィルの後に続いた。
短い足で、ポテポテと後を追う姿は可愛らしい。だが早足は慣れていない為に、途中で躓いてしまう。それも、顔面が地面とご対面。ドスっと鈍い音と同時に顔が埋まり、暫く動かない。
この音にウィルは何か問題が起こったのだろうと振り返ると、目の前には顔を埋めたディオンの姿があった。
「デ、ディオン!」
このままにしておくのは、あまりにも不憫だ。
ウィルは慌てて近付く、ディオンの様子を確認する。すると、低音の声が聞こえてきた。どうやら見捨てられたことに、泣いているようだ。
「お、お前……」
両手でディオンの顔を地面から引き抜くと、土で汚れた顔を見る。
やはり予想通りにディオンは泣いていたようで、顔が土と涙で汚い。するとその時、長く糸を引いた鼻水が垂れる。
「ふう、帰ったら風呂だな」
その一言に、ディオンの表情が明るくなった。ウィルの上に乗り掛かると、鼻水が垂れる顔を摺り寄せてきた。
「うわ! や、やめろ!」
ウィルの叫び声が響き渡る。その声に周囲にいた者達が一斉に笑い出し、平和なひと時を楽しんだ。


