それどころか逆に「結婚すればわかる」と言われ、ますますウィルを混乱させる。そもそも、ウィルの結婚願望は低い。今のところは仕事を楽しみ、自由に生きたいのだ。結婚して、制約されるのは好まない。
そのことを正直に伝えると、返ってきたのは笑い声であった。まさに、ウィルらしい反応。こうなると、なかなか結婚はしない。そして喜ぶのはアルンであり、悲しむのはユフィールだ。
「うん? どうした」
話の腰を折るように、ディオンがウィルに擦り寄ってきた。どうやら話の内容がつまらなく、飽きてしまったようだ。
それにこのまま話を続けたらおかしな方向に行くと感じ取ったのだろう、ディオンは必死だった。擦り寄り、懸命に何かを訴えかけてくるディオン。一方ウィルは優しく鼻先を撫でてやると、目的の場所に行くということを伝える。
その言葉に、ディオンの瞳が輝く。やっとこの場から離れられることを、心の底から喜んでいる。
いや、違う。ウィルを取られたくないという嫉妬心がそうさせた。
「では、行きます」
「何か御用が?」
「いえ、ただの寄り道ですから」
「そうでしたか。てっきり、この子が引き止めたのかと」
「ウィル兄ちゃんの仕事は、邪魔しないもん」
勘違いされたことに腹を立てた少年は、頬を膨らますと腰に手を当て仁王立ち。そのことに母親は謝るが、少年の機嫌が直ることはない。それどころか横を向いてしまい、母親を困らせる。
「母親を困らせるとは、悪いお兄ちゃんだ」
ウィルが珍しく、説教をはじめた。それは少年にとって驚くものであり、反射的に横を向いていた顔を真っ直ぐに直す。そして、渋々ながら母親に謝った。この時、ウィルの説教が意外に効果があると、判明した瞬間である。それにより、母親は違うことでも怒ってほしいと頼む。
「そ、それは……」
「そんなこと、ウィル兄ちゃんに頼むな」
「貴方が、怒らせることばかりするからでしょ」
「ち、違うもん」
突如はじまった親子喧嘩に、ウィルはどうしていいのか迷ってしまう。互いから発せられる時間の経過と共に言葉は熱を帯び、白熱した戦いとなる。こうなってしまったら、簡単には止めることはできないだろう。二人の間に挟まれる形のウィルは、居心地が悪かった。


