ユーダリル


 このような時は、子供や老人は外出禁止。

 また「島の隅に行ってはいけない」という決まりがあった。

 しかし、一年中濃い雲に悩まされることはない。

 これは初夏の風物詩で、この時期が過ぎれば問題ない。

 だから「ユーダリルが厚い雲に覆わる時期になれば、本格的な夏が近い」と、言われている。

「目標を誤って、木に激突しなければいいですが……中庭には、多くの巨木がありますので」

「その時は、その時だ」

 そのように言うのは、ウィルの実兄アルン・ラヴィーダ。

 血の繋がった弟を心配することはごく僅かで、殆ど酷い扱いをしている。

 それに、荷物の中味の方を心配する凄い人物だ。

 一方、アルンの横で品が漂う雰囲気を醸し出している女性は、秘書のセシリア・イングラードであった。

 彼女は、眼鏡が似合う知的な女性。

 ウィル曰く、セシリアは美しい女性。

 彼女はアルンの片腕であり、完璧に仕事をこなす才女。

 セシリアが側にいるから、アルンが仕事を成功されている――という噂があるほど彼女は優秀で、一部の意見で上げられるは「アルンよりセシリアの方が恐ろしい」というもの。

 メイド達の話では、二人は互いに気になっているらしい。

 本人達は強く否定することがないので、満更嘘ではない。

 それにセシリアはアルンのことを話すと、嬉しそうな表情を見せる。

 しかし仕事の時は別人に変化し、このように厳しい一面を見せ、アルンに葉っぱを掛ける。

 まさに、秘書の鏡だ。

「口煩く言いますと、帰ってこなくなってしまいますよ。現に、滅多にお帰りになりません」

「いや、それはないだろう」

「と、申しますと?」

「ウィルの職業は、何かと金が掛かる。資金提供をストップすると言えば、嫌でも帰ってくる」

「それでは、ウィル様が可哀相です。無駄に権力を行使することは、許されません。それが、実の弟であろうと」

「そういうものか?」

「勿論です」

「わからん」

 セシリアは、ウィルのことを“可愛い弟”として見ている。

 そして、ウィルはセシリアを“優しい姉”として慕い、こっそり相談に乗ってもらっているという。

 内容は、決まって兄のこと。

 下克上ができない今、頼れるのはセシリアのみ。それに、アルンの弱みはセシリアだ。