(くそー、あいつ)
プディングが入っていた箱を握りつぶしてしまう。全身から放たれる怒りのオーラにディオンは戦き、悲しそうな声で鳴く。その声に我に返ったウィルは「なんでもない」と言葉を掛けつつ、鼻先を撫でる。
「お前のように、好き嫌いがなければ……」
そう、ディオンのように「何でも食します」という性格であったら、こんなに苦労はしない。だが、嫌いなものは嫌い。簡単に克服できるようであったら、悩むことなどないだろう。
「おい! 何処にいる」
その時、ギルドマスターの声が響き渡る。怒りが込められたその声音にウィルは、顔を顰める。あの声音の時は、虫の居所が悪い。どうやら、黙って消えてしまったウィルを捜しているようだ。
行きたくない。
真っ先に、そう思い浮かぶ。素直に出て行ったら、必ず怒られるだろう。
プディングの件といい、ウィルにとって最悪な日であった。
「御免な。すぐに帰ってくるから」
ウィルに「逃げる」という選択を選ぶ権利はない。次に行わなければいけないのは、ただひとつ。
そう「ギルドマスターに会う」ということだ。
「はあ、嫌だな」
ディオンの鼻をポンっと叩くと、ギルドマスターのもとへ向かうことにした。そしてウィルに待っていたものは、予想通りの結末。
◇◆◇◆◇◆
仕事を終えたユフィールは、自室で何やら作業を行っていた。自室といっても二人部屋。ルームメイトがいる場合、プライバシーというものは無いに等しいが、仲の良いメイド同士、特に気になることはない。
ユフィールが黙々と続けている作業は、編み物であった。慣れた手付きで編んでいるのは、白いマフラー。これは自分で使用する物ではなくプレゼント用。無論、相手はウィルである。
「もう少し……かな」
編み途中のマフラーを目の前の高さまで持ち上げると、どれくらいの長さまで編んだのか確かめていく。一番の理想は、相手が使いやすい長さに編むことだ。しかしマフラーを編んでいるということは、ウィルは知らない。そう、出来上がるまで内緒にしているからだ。


