「おい、風邪ひくぞ」
ウィルの言葉に、一瞬にして目を覚ます。そして嬉しそうに鳴くと、思いっきり擦り寄ってきた。しかし、この行動は予想済み。寸前でディオンの擦り寄りを避けると、反射的に身構える。
大好きな人の冷たい仕打ちにディオンは悲しそうな表情を作るが、ウィルは態とやっているわけではない。擦り寄りくらいなら、いくらでも構わない。問題は、その後の行動にあった。ディオンは擦り寄った後、必ず顔を舐めてくる。無論、舐められた後は全身ベトベトになってしまう。
「泣くな。お前に、食べ物を持ってきた」
「食べ物」という単語に、ディオンの目が輝く。先程の悲しい表情は吹っ飛び、今は目の前の食べ物のことで頭がいっぱいになってしまう。早く食べたいとせがみ、口から涎を垂らす。
「ほら、美味しいぞ」
箱を開け中身を取り出すと、ディオンの目の前に差し出す。変わった色の食べ物に躊躇いを感じたのか、鼻を伸ばし匂いを確認。すると食べられる物だと判断したのか、プディングを一口で平らげてしまう。
プディングの中にピーマンが入っていようが、ディオンには関係なかった。二・三度口を動かすと、そのまま飲み込んでしまう。これは、丸飲み状態といってもいい。その光景に、ウィルは顔を歪めてしまう。ピーマンを美味しく食す。それは、信じられないことだった。
「美味しかったか?」
その言葉に、満足そうに頷く。やはりディオンにとって、食べられる物は何でも美味しいようだ。こうなると、普通に道端に生えている雑草も食べてしまうかもしれない。要は口に入れられるのなら、何でもいい。その時、ある事件を思い出す。それは、ユフィールが捕まった事件だ。
あの時ウィルは、プディングを持ってきたロバートを威圧――もとい、半殺し寸前まで行おうとしていた。結果としてユフィールに助けられたが、恨みを持っていることは間違いない。
それにより、ウィルはピーマンを苦手としていることを知ったのだろう。もしかしたらロバートはその時の復讐を行う為に、ピーマン入りのプディングを作ってきたというのかその瞬間、ウィルの背中に冷たいものが流れ落ちた。ロバートは、意外に執念深い一面を有している。
そう考えると、強ち間違いではない。やれれた――そう察したウィルは、次に出会ったら殴り倒しているだろう。いや、それだけでは済まされない。道ですれ違った時点で、蹴り倒す。見た目は人畜無害のウィルであるが、あのアルンの弟だけあって考えは時として過激になる。


