「これで、アルンの障害がなければ――」と周囲は考えていたが、それは難題に等しい。
本人達は今のままで満足しているが、周囲の者達は口々に異論を唱えていく。
現に、どのように頑張っても結果は同じ。
この世界にブラコンを一発で治す薬が存在するのなら話は別であったが、生憎そのような便利なものはない。
それにより、二人の関係が今以上に進展しない。
「それはそうと、報告する?」
「当たり前だ」
「勘弁してほしい」
「それなら、それ相応の覚悟が必要だ」
その意味深い台詞に、ウィルが固まってしまう。アルンは、物事を後回しにするのが嫌であった。
このようなことを言われた場合、必ず裏が存在する。
それを瞬時に感じ取ったウィルは不快そのものの表情を見せるが、アルンが許すわけがない。
そう、彼に捕まったら覚悟をしないといけない。
「うっ!」
「何だ、その反応は」
「いや、別に……」
嫌味が大量に含まれた言葉にウィルは、渋い表情を作ってしまう。
アルンがこのように厳しい口調を取る時は、決まって嫌なことが起きる前触れ。
今回のチーズ事件といい、まったくついていない。
度重なる不幸にウィルは叫びたい心境であったが、懸命に口をつむぐ。
「待っている。風呂に入ったら、部屋へ来い。拒否権は、お前にない。もし、逃げるようなことがあれば――」
「わかっていますよ」
「それならいい」
それだけを言い残すとアルンは踵を返し、建物の中へ戻って行った。
そしてそれに続くようにセシリアは深々と頭を垂れると、アルンの後を追うように屋敷へ向かう。
その場に取り残されたのは、顔面蒼白のウィルと落ち込んでいるディオン。
互いの間に、会話などない。
するとディオンが、何かを訴え掛けてくるように鳴き声を発してきた。
どうやら風呂の件について気になっているのだろう、懸命であった。
ウィルにしてみれば、そのことは関係ない。
アルンの呼び出しで頭がいっぱいになってしまい、今は風呂のことなど考えられない。
「あの状況では、聞くに聞けないよ。それと、お前は暫く此処で待っていろ。メイドに頼んで、傷の手当てをしてもらわないといけない。風呂は、それから考えよう。兄貴の機嫌は悪いし……」


