「おーい!」
その声に、ピクっと反応を見せた。
そして反射的に顔を上げると、周囲の様子を確認するように見回す。
すると着地した場所を間違えたことに気付き、顔色が真っ青になってしまった。
ディオンはウィルの様子を伺うかのように、切ない声で鳴く。
しかし責める理由がないということで、ウィルは怒ることはしなかった。
それどころか、目の前の状況に悩んでしまう。
「まあ、仕方ないよ。ふう、ヘルマーの爺ちゃん怒るだろうな。爺ちゃんの大切な花壇が……」
ヘルマーとは、この屋敷で働いている庭師の名。
“庭は、わしの領土”と言うほど花々に情熱を持ち、お陰で季節ごとに美しい花を楽しむことができた。
そして、この屋敷を訪れる人々にも好評であった。
その庭師が育てた花を、無残な形にしてしまうとは……後が恐ろしい。
「はあ、この現状をどうしようか。こんなになるとは……よし、折った花を埋めてしまおう」
「証拠隠滅は、感心しないぞ」
「あ、兄貴」
其処にいたのは、何と兄のアルンであった。
どうやら激突の時に発せられた音に驚き、様子を見に来たようだ。
その後ろに控えるように立っているのは、凛とした立ち振る舞いが美しいセシリア。
そして更にその後方に控えていたのは、セシリアの妹であるユフィール。
「着地を失敗するとは、珍しいな」
「こんな天気だから、仕方ないよ。ディオンだって、頑張ったよ。だから、怒らないでほしいな」
アルンの言葉に、シュンとした態度を見せるディオンの鼻先を撫でつつ「気にするな」と言葉を掛けてやる。
やはり着地を失敗したことが、飛竜としてもプライドを傷付けてしまったらしい。
「まあ、屋敷に激突するよりはいい」
その瞬間、アルンの目が妖しく光る。
微かな変化を見逃さなかったウィルは、ゾクっと身体が震えた。
それにより、嫌な過去を思い出す。
それは今回の事件のように、ディオンの着地失敗事件が発端となった。
今日のように一面が雲に覆われた時期。
ディオンは何を勘違いしたのか、屋敷の二階の窓に突っ込んでしまった。
卵から生まれて、数ヶ月後の出来事。飛べるようになったことが嬉しいディオンは、屋敷の周囲を元気よく飛び回っていた。
そこまではいい、問題はその先にあった。


