そして、ディオンをどのように攻略をするかが鍵であった。
ウィルの恋の相手――
彼女の名は、ユフィール・イングラード。
そう、アルンの秘書セシリアの妹であった。
彼女は姉と同じ職場で働き、メイドとして頑張っている。
年齢が近いという理由から、ユフィールはウィルの身の回りの世話を行っていた。
そして仲間達からは嫌味を言われるどころか逆に支援と応援をされ、強力なバックアップとなっていた。
ウィルとユフィールは、いい関係にあった。
それにより仕事が忙しいウィルだが、定期的にユフィールに会っている。
しかし――
いい雰囲気の二人の間を邪魔したいと思っているディオンであったが、実力行使に及ぶことはしない。
何かの弾みでユフィールを怪我させてしまったら、ウィルに怒られてしまうからだ。
だからこそ、ささやかな抵抗しか行えない。
そしてその行動は、周囲の笑いを誘った。
「どうした?」
いつもと雰囲気が違うディオンにウィルは声を掛けるが、返事は返ってこない。
ディオンが言葉を発することができたのなら、ウィルが他人に取られるのが嫌だということを伝えていただろう。
卵から孵って五年。
外見は立派な飛竜として成長していたが、中身は子供のまま。
飛竜は卵から孵ったと同時に、急激に成長をしていく。
そして僅か三年で大人まで成長し、それ以降はその姿を維持していくという。
老いることのない生き物とされているが、詳しいことはわかっていない。
飛竜は竜族の中では大人しい種族なので、研究を行おうと思えば簡単にできる。
だが、竜は竜。
怖いというのが正直な感想だ。
最近、飛竜を研究しはじめた物好きがいると、ウィルは噂で聞いたことがあった。
何でも「誰も挑戦していない分野の第一人者になりたい」という理由らしい。
どのような理由であれ、少しでも飛竜のことがわかれば有難い。
ディオンと付き合いは長いが、いまだにわからないことが多いからだ。
「雲の中は、怖いか?」
その言葉に、ディオンは頭を振る。
空を優雅に舞う者、雲を恐れては何もならない。
それにウィルに恥ずかしいところを見られたくないと健気頑張るが、内心ちょっぴり怖かった。
「偉いな。お前も頑張っているから、兄貴を説得するのも頑張るよ。風呂好きの性格は、治らないだろ?」
その言葉にディオンは、何度も頷いていた。
実のところこの性格は、今にはじまったわけではない。
全ての原因は、卵時代に遡る。
何とウィルが、卵を抱えたまま風呂に入っていたのだ。


