そう言い残すと、ウィルはディオンの背中に飛び乗る。
そして飛び立つように命令を下すと、ディオンは翼を開き力強く羽ばたいた。
突如発生した空気の流れに監視員達は飛ばされそうになるが、何とかその場に踏み止まる。
しかし中には、情けない姿でこけてしまう者もいた。
「ああ、ウィル様」
「大丈夫だよ」
「それは、貴方様だけです」
「お、お待ち下さい」
だが、返事は返ってこなかった。
それはウィルとディオンの姿は、雲の中に消えてしまっていたからだ。
ウィルを止められなかったことに、監視員達は一斉に深い溜息をついていた。
これでウィルの身に何かがあったら、謝って済む問題ではない。
「大丈夫」と言っていたがあのように見えてアルンは、ウィルを溺愛していた。
それを知らない者は気楽であり、他者を不幸に巻き込んでしまう。
もし知っていたらこのような強行に及ばないが、知ることはない。
「そのように言われましても、アルン様は――」
そのように叫んだ所で、聞いてくれる相手は天高く飛んでいってしまった。
今は、無事を祈るしかない。
その思いは、全ての監視員にあった。
これにより、給料の減額は避けたかったからだ。
「やっぱり、凄い雲だな」
監視員にあのように言った手前、無事に帰宅しないといけない。
視界は、殆んど無いに等しい。
頼りになるのはディオンのみで、空を熟知している彼なら何とかしてくれるに違いない。
「無理はしなくていいから」
ディオンのことを気遣う言葉を発するが、本当は自身が怪我をしたくなかったからだ。
流石にそのように言えないので、心配をしているように装う。
しかし長い付き合いなので、ディオンは気付いていた。
ディオンはウィルの身を案じているので、無理なことは決して行わない。
それは友人であり母親のような存在のウィルを、誰よりも大切にしたいという思いが強く働いていたからだ。
そのことが関係してか、メイド達に嫉妬心を抱いている。
過去にウィルがメイド達と楽しい会話をしている間に割り込み、邪魔したという微笑ましいエピソードが残っているほどだ。
その時は笑って済まされたが、後でウィルの雷が落ちた。
ディオンという存在が近くにいる限り、ウィルの恋が更に進展することはない。


