項垂れるウィルにディオンは身体を摺り寄せると、思いっきり顔を舐めた。
ザラザラの巨大な舌で、下から上に。
そして今度は大きく口を開けると、お茶目でやっているらしくウィルの頭を咥えた。
無論、本気で噛むことはしない。
しかし手加減しているとはいえ、不快そのもの。
「……ディオン」
頭と顔に唾液がつき、気持ちが悪い。これは一種の愛情表現だとわかっていたが、これだけは我慢できない。
ウィルは素早い動きでディオンから逃れると、両手で口を左右から挟む。
「いい加減にしろ」
滅多に怒ることのないウィルからのお叱りに、ディオンはいじけてしまう。
良かれと思ってやったことが裏目に出てしまい、瞳を潤ませながら謝ってきた。
そんな素直なディオンにウィルは、ポンっと鼻先を叩くと許してやることにした。
その瞬間、表情が明るくなった。
「ふう、これじゃあメシどころじゃないか……」
このような姿で、食堂に入ることはできない。
それに早く風呂に入り、ベタベタからは開放されたかった。
仕方がないので、ウィルは実家に帰ることにする。
この近くに、入浴可能な場所はない。
「家に帰る。ディオン、飛べるか?」
それに対しての答えは、勿論できるというもの。
空を自由に飛ぶことができる飛竜のプライドがそうさせているのか、分厚い雲の中であろうとディオンは飛び、目的の場所へと向かう。
逞しいウィルは相棒を島の端まで連れて行くと、周囲に広がる雲の状態を確かめる。
「ウィル様、どちらへ?」
怪しい動きを見せるウィルに、複数の監視員が飛んできた。
明らかにその姿は、飛び立つ一歩手前。
そう判断した監視員達は必死の説得を行うが、ウィルは聞き耳を持とうとはしない。
「大丈夫だよ」
「いけません。雲が晴れるまで、お待ち下さい。ウィル様にもしものことがありましたら……我々が、怒られてしまいます」
「まあ、確かにそうだけど」
「で、でしたら……」
「大丈夫だよ」
「そのような問題ではありません。ラヴィーダ家の者を怪我させたという噂が広まりましたら、面子に関わります」
「下っ端は、大変だね。安心していいよ。無事に、家に帰るから。ディオンがいれば、平気だよ」


