「で、迎えはチーズだけ?」
「そう仰らないで下さい。勿論、ウィル様も共に」
「ディオンはどうする?」
そう言うと、地面に首をつけ欠伸をしているディオンに視線を移す。
流石に、ディオンを馬車に乗せることはできない。
それなら雲が晴れるまで、この場で留守番をしてもらう。
しかし、長年の相棒をこのままにしておくのは可哀想なので、ウィルはアルンよりディオンを取る。
するとウィルは、ディオンの背に縛り付けてあったチーズ入りの箱を手に取ると、ノーマンに手渡す。
どうやら共に戻るということを、選択したようだ。
これもまた、アルンへの小さな反抗。
それにチーズが手に入れば、アルンは何も言ってこないと思っていたからだ。
「そういう訳だから、兄貴に宜しく」
「わかりました。ウィル様、お気を付けて」
「了解」
「では、失礼します」
その言葉と共に雲の中へと消えていくノーマンの後姿を見送ると、ウィルはディオンに抱き付きつつ頭を撫でた。
それはいつもと逆であったが、ディオンは嫌がる素振りを見せることはしない。
寧ろ、喜んでいた。
「腹減ったから、メシでも食おうか」
アルンの唐突な命令により、朝食を取る暇などなかった。
その為、先程から腹の虫が鳴り続けている。
朝から水しか口にしていないので、限界は近い。
人の食事時間を平気な顔をして奪うとは、何と横暴な人物だと思ってしまうが、そのことを口に出して言うことはできない。
これも、資金面を握られている者の弱みというべきものか。
だが、このまま一生頭が上がらないというのは、正直嫌であった。
だからといって反発を行えば、即座に資金提供はストップしてしまう。
そうなればトレジャーハンターの仕事が行えないので、自棄を起こすという手もあった。
反乱を起こし、アルンの手から離れればいい。
そうすれば、違う出資者を見つけることができる。
しかし反発したと同時に、手を回される可能性が高い。アルンは、変にネットワークが広い。
これらを総合すると、自分自身で首を絞めることになってしまう。
こうなると、諦めるという選択しか残っていない。
この世界に神は存在しないのか――
度重なる不幸に、ウィルは身の不幸を呪った。
「血も涙もない」


