「ウィル様!」
その時、男性の声がした。
ウィルは声が聞こえた方向に振り向くと、誰の声なのか確認する。
白い雲の所為で正確には判断できなかったが、執事ノーマンであった。
確か、年齢は四十後半と若い。
「良かった。無事に、着陸できたのですね」
「あれ? 何で、此処に?」
「アルン様のご命令で、お迎えに」
ノーマンの言葉に、一瞬疑いの目で見てしまう。“あのアルンが迎え!”正直、信じられないという思いが強い。
そして、ウィルの考えは正しかった。
迎えの対象はウィルではなく、チーズが入った箱であった。
これこそアルンらしいというべきだろう、身体が硬直する。
「あの兄貴!」
もう、叫ぶしかなかった。実の弟の心配をせずに、チーズの心配をするとは――あまりの残酷っぷりに、ウィルは目元に涙を浮かべてしまう。
そして低音の声音で、愚痴りはじめた。
「し、しかし。アルン様は、ウィル様の心配しておりました。ですから、そのようなことはありません」
「それは、建前の話だよ。僕が怪我をしたら、チーズも危ないからね。そんな所だと思うよ」
「そ、それは――」
「いいよ。兄貴の性格は、承知の上だし」
トレジャーハンターを仕事としているので、大体の事件・事故の対処法は心得ている。
しかし、怪我をしたくないと思うのが正直な意見。
それに、人間の命とチーズを同じ天秤に乗せてほしくはない。
そもそも、このふたつを図ろうとしている自体、間違っているだろう。
そしてこの場合、傾く天秤の上にはチーズが乗っている。
そうウィルの命は、チーズより軽い。
このことを本人から聞くことはできないが、もし“チーズ”と答えられた場合、ウィルは家出を決意するだろう。
そしてアルンの影響が及ばない、最果ての地へと逃げてしまう。
「は、はあ」
「図星だね」
「ウィル様には、隠しごとはできません」
「やっぱり」
こうも予想が的中すると、何だか遣る瀬無い気分になってしまう。
アルンはウィルのことを“パシリ”と、勘違いしているのか。
だとしたら、チーズを地上に向かって投げ捨てていた。


