ユーダリル


 また、ウィルは違う意味で有名であった。

 宝回収率は、ギルドに登録されているトレジャーハンターの中ではトップクラス。

 独学で古代語をマスターし、トラップ解除はお手の物。

 またアルンから習った剣の腕前は高く、並みの兵士以上に戦えるというが、本気で戦ったことは一度もない。

 過去、ウィルが取ってきたお宝をアルンが市場で売り捌き、ひと財産築いたという逸話が残されているが、真相は定かではない。

 しかしその後、ユーダリルに立派な孤児院が建設されたという話が残っているので、強ち嘘ではない。

 それにあの二人なら、これくらいは普通に行える。

 そのような二人にも敵は存在するが、いたとしても相手にならない。

 返り討ちに合うのが関の山で、自身の惨めな一面を再認識するだろう。

 つい数日前、アルンに敵対していた商工会が潰されてしまった。

 そのような訳でラヴィーダ家の兄弟、特にアルンには手出ししてはいけない。

「雲が出ているとはいえ、無事に着陸できるなんて流石ですね」

「いえ、ディオンのお陰です」

 そう答えると、横で翼を休めているディオンを一瞥した。

 ユーダリルでは、空を飛ぶ手段を持っていなければ、自由に身動きが取れない。

 それなら島と島を結ぶ橋を利用する方法があったが、これでは時間が掛かってしまい、トレジャーハンターとしての仕事が行えない。

「流石、ウィル様の相棒だ」

「最高の相棒ですよ。先程の話なのですが、兄の呼び出しではありません。ただの御使いです」

「大変ですね」

「これは、慣れましたよ。所で、いつ晴れますか?」

「強い風が吹けば、すぐに抜けることができますが……このまま微風が続きますと、わかりません」

「そうですか……困ったな」

 雲が立ち込めている日に、街の上空を飛ぶのは危険であった。

 港とは違い高い建物が建っているので、それにぶつかりでもしたら大怪我を負ってしまう。

 それに、物を壊してしまったら面倒だ。

 だからといって、ディオンを歩かせるわけにはいかない。

 こう見えて、歩くのは苦手。

「兄貴は、時間に煩いし。どうしようか?」

 一向に晴れる気配を見せない天候に、ウィルはディオンに凭れ掛かりつつ愚痴をこぼしていた。

 遅れた理由が天候の所為だと言えば、許してはくれないだろうか。

 あのアルンの性格上、大して期待はできない。

 どのような天候であろうと、関係なし。

 「天候が悪いのなら、それを良い方向に持って行け」と、アルンは神がかり的な無理難題を吹っ掛けてくる。