そしてこの喧嘩は、一時間近く続いた。
◇◆◇◆◇◆
実家でそのような喧嘩が行われているとは知らないウィルは、ユフィールお手製の料理を食していた。
薄い味付けの食事は飽きてしまったので、無理を言って通常の味付けの野菜スープを作ってもらい、ウィルは無言でそれを啜っていた。何より塩味が効いていて、とても美味しい味付けである。
「どうでしょうか?」
「美味い」
「野菜の硬さは、これでいいですか?」
「中まで、火が通っているよ」
「お好きな野菜は、ありますか?」
いつになく説教的なユフィールに、ウィルは首を傾げていた。いつもなら物静かな態度を見せているが、今日は様々な質問をしてくる。ウィルの好き嫌いにはじまり、趣味に至る。
何をそれほど知りたいのかわからないウィルであったが、ユフィールにしてみたら真剣だった。好きな人物の好みや趣向を知りたいと思うのは、女心だろう。何より、料理でウィルを満足させたかった。
夢が現実となった場合、ウィルの世話をするのはユフィールしかいなくなってしまう。今現在、周囲の計らいによりそのような立場に置かれているが、あくまでも周囲の助けがあってのこと。
もし周囲の助けがなくなってしまったら、このように世話をすることができなくなってしまう。だからこそ少しでも趣味趣向を学び、ウィルに気に入ってもらえる女性へと成長したかった。
「おかわり」
野菜から美味しい出汁が出たスープを飲み干すと、皿をユフィールの前に突き出す。たとえ熱が高かろうが、ウィルは食欲旺盛である。やはり濃い味付けがいいのだろう、これで三杯目だ。
「料理、上手くなった?」
「練習をしましたので」
「以前のオムレツは、凄かったね」
「今度は、美味しく作ります」
ウィルから皿を受け取ったユフィールは、そのように言葉を残すと、台所がある奥へと行ってしまう。ウィルは、大きな溜息をつく。それはユフィールに向けられたものではなく、窓の外にいるディオンに向けられたものであった。


