ユーダリル


 そして、仕事が進められた。


◇◆◇◆◇◆


「凄い雲だな。ディオン、大丈夫か?」

 ユーダリル全体を覆いつくす先が見えない雲。

 いくら慣れているとはいえ、油断は禁物である。

 ウィルは周囲を見渡し安全な場所を探すが、いかんせんなかなか見つけることができない。

「いつもは誘導用の明かりが照らされているというのに、雲が予想以上に厚くて見えないな……あっ! あれか。ディオン、あれを目印に下りてほしい。接近しすぎると、島の角にぶつかるぞ。ああ、そっちじゃない。もう少し先に行って降りないと、ディオン危ないぞ」

 白い雲を照らす、微かな明かり。

 雲が一面を覆いつくした時、外部からの訪問者を誘導する為に、いくつもの明かりを用意している。

 事故を最小限に食い止めるという理由であったが、慣れているはずのユーダリルの住人にとっても、この明かりは本当に助かっていた。

 ゆっくりと翼を動かしながら、ディオンは明かりに向かって飛ぶ。

 明かりを灯す場所は周囲に高い建物がない所と決まっているので、ぶつかる心配はないが油断はできない。

 その為、真剣な目付きをしていた。

 だが、相手は空を熟知している飛竜なので、無事に到着した。

「ご苦労様」

 労を労うように言葉を投げ掛けると、ポンっと頭を叩いた。

 彼等にとってこの状況であろうと、快晴の空を飛ぶのと同じ。

 無用な心配とも取れるが、ディオンが怪我したら大変なので、ウィルは心配してしまう。

 それは世話のことも関係していたが、何より薬の代金が馬鹿にならない。

 そのようなことで――と思われるが、アルンに資金提供をしてもらっている身分。

 痛い出費は、避けなければならない。

 金欠になろうものなら、頭を下げてお願いしないといけないからだ。

「おや? これは、ラヴィーダ家の坊ちゃん」

 その時、港を管理している監視員が声を掛けてきた。

 ウィルの家は手広い商売の関係上、ユーダリルでは有名であった。

 ラヴィーダ家の兄弟となれば、更に有名。

 “最強”という、二つ名が付いている。

 アルンの商売の腕前は、天下一品。

 同業者から「敵に回してはいけない」と恐れられ、裏では多くの人を泣かせていると噂されているが、決してそのようなことは行っていない。

 要は、広い人脈のお陰。

 この歳で貴族相手と対等に商売できるのは、アルンくらいしかいない。