しかし、知ると知らないとでは大違い。後々これが役に立つ日が来ると期待してしまうが、果たしていつになるというのか。それがあるとしたら、それはウィルが結婚する日だろう。
様々な場所で圧力を振るったというのに、止められなかった弟の結婚。アルンにとって、これほど悔しいことはない。
結婚式の最中、泣き続けるアルン。セシリアをはじめ、メイド達は爆笑するに違いない。無論、ウィルも同じだ。
アルンは、物事の優先順位をいまだに把握できていない。何事もウィル中心に考えているのが大きな原因であるが、やるべきことは沢山あった。そのひとつは、両親との会話を行う。
そして次に必要なのは、セシリアとの結婚をどうするか。重要なのは、間違いなくこのふたつだろう。だが、アルンはそのことを全く考えていない。いや、考える余裕がなかった。
アルンの思考回路には、仕事とウィルのふたつが大半を占め、多少の余裕を見せた時に、他のことを考える。同じふたつといってもその性質は異なり、セシリアの頭痛の種となっていた。
その時、騒がしい音が響き渡る。それはドタドタという、何かを踏みしめるような音であった。両親が訪れた時とは、雰囲気が違う。あの時は悲鳴が轟いたが、今回はそれが聞こえない。
それどころか、声援に似た声が聞こえた。その不可解な音に、アルンとセシリアは首を傾げてしまう。そして互いの顔を見つめると、溜息をついていた。この音の主が、わかったからだ。
「……アルン様」
「それ以上は、言うな」
「やはり、そうでしたか」
このようなはしたない走り方をするのは、一部のメイド達だけだろう。しかし今回は客人が来ているので、流石に走ったりはしない。よってこの音の主は、両親――特に、クレアだ。
「アルンちゃん」
「本当に、いるのか?」
「大丈夫よ。ほら、いたわ」
力任せに扉を開くと、母親が入ってきた。手加減なしのその行動により、壁にかけてあった額が斜めに曲がってしまう。それを見たセシリアは無言のままで、曲がった額を直しに行く。
「何で来た」
「もう、相変わらずの反応ね」


