今のところ心配がないがこの苦労が続いた場合、アルンとウィルのどちらかが若ハゲを迎えるだろう。そのことを知らない両親は、呑気でマイペースを貫く。だからこそ、二人は歳を取るのが遅い。
もし周囲に気を配りそれなりにストレスを感じていたとしたら、年齢相応の歳の取り方をする。
自己中心の為に、ストレスが溜まることは決してない。だからこそいつまでも若々しさを保ち続けているのだろう、逆に周囲が老化していく。現にこの二人に関わって、何人の人間が胃を痛めたというのか。それに病院送りになった人物がいるが、二人は気にしていない。
「ねえ、アルンちゃん」
「何でしょうか」
「お菓子が食べたいわ」
「わかりました。用意をさせます」
「スコーンには、ジャムよね」
その言葉に、アルンの眉間が動く。何処までも我儘を通すクレア。いや、この場合はトラビスも含まれるだろう。両親は常に一緒。決してわかれるということはない。この我儘は、トラビスも同じだ。
「それでしたら、お好みのお菓子を出します。一体、何が食べたいのですか。言ってください」
「そんなに怒らなくとも……」
「怒りますよ」
珍しく声を張り上げるアルンに、セシリアをはじめメイド達が驚きの表情を作る。まさかアルンが、ウィル以外のことで怒るとは――それが、信じられなかった。まさに、前代未聞のことである。
声を張り上げたことに疲れたのか、アルンは肩で息をする。そして物凄く不機嫌な目線を両親に向けると、暫くそのまま見つめる。すると何事もなかったかのように踵を返すと、そのまま歩いていってしまった。
「あら、怒ってしまったわ」
「何か、悪いことをしたのか?」
「していないわ。きっと、虫の居所が悪かったのよ。アルンちゃんは、とても優しい子なのだから」
「そうだな。我々の息子だから」
どのような意味合いから、そのような結論が導き出されるのか。それがわかる者は、ラヴィーダ家にはいない。無論、セシリアも理解できない。いやその前に、理解をしたくはないだろう。アルンの全身から漂う、殺気に似たオーラ。誰かを殺めそうな勢いがあったが、両親は相変わらずのほほんとしていた。


