そしてその場に取り残されたのは、アルンとセシリアだけになってしまう。いや、二人だけではない。
先程からアルンとウィルの両親の相手をしている、執事ノーマンが含まれていた。彼もまた限界が近いのだろう、今にも貧血で倒れそうな雰囲気であった。まさに、精も根も尽き果てたという感じだろう。アルンが負けてしまう相手に、普通の人間が勝てるはずがない。
「……お久し振りです」
「あら、アルンちゃん久し振り」
「それは、やめてもらえますか?」
「いいじゃないの。親子なんだし」
「親子でも、嫌なものは嫌です」
「あら、酷いわ」
「酷くは、ありません」
正直な思いをぶつけるも、相手は聞く様子はない。それどころか「ちゃん」を連呼していき、アルンを怒らせていくのだった。だが、その怒りも通じない。流石、唯我独尊。色々な意味で、最強の夫婦だ。
「いけないぞ。母親を困らせるのは」
「困らせているのは、どちらですか」
「私は、何もしていないわ。ただ、アルンちゃんが可愛くて……貴方のことが、心配なのよ」
「と、言っているぞ」
何を言っても通じない夫婦に、アルンは頭が痛くなってしまう。徐に痛む額を押さえると、一緒に暮らさなければいけないことを嘆く。僅か一週間の滞在であるが、それは一年にも思える長さだ。
「可愛いと思うのなら、構わないでください」
「それは、無理なのよね」
両親は互いの顔を見合すと、同調する言葉を言っていく。流石、長年一緒にいる夫婦だろう。
その同調率は素晴らしいものがあった。しかし、見ている側はしんどい。特に、アルンがそうだ。
「ア、アルン様……」
「此処は、何とかする。他の仕事を頼む」
「わ、わかりました」
顔面蒼白のノーマンは、涙まじりで何度も頷く。それは「助かった」という意味合いが含まれており、まさに恐怖からの開放だろう。その場から立ち去る後姿は、何処か嬉しそうであった。


