ユーダリル


 寧ろ考えれば考えるほどおかしな方向へ思考が働き、最終手段を使わなければいけないと思いはじめてくる。最終手段――それは両親の嫌味を嫌というほど言い、追い出すということだ。

 だが、曲者の両親。そのような手段が通じるとは、思えない。逆に、アルンが負ける可能性が高い。

「さあ、迎えに」

「わかったよ」

「覚悟をなさいましたね」

「そうするしかないだろう」

「それは、正しい考えです」

 嫌々ながら椅子から腰を上げると、両親を迎えに行くことにした。そのことにホッと胸を撫で下ろすセシリアは、アルンの後に続く。

 その時、メイド達の悲鳴が響き渡った。そしてバタバタという足音が、周囲にこだまする。

 それは慌しいという雰囲気ではなく、焦りに似た何かが含まれていた。その急激な変化に、アルンはあることを直感した。

 誰かが来た。

 しかし、予定時間はまだ訪れていない。それに直接来るとは、聞いていなかった。だが、相手は来てしまった。訪れたのは、両親である。相変わらず何を考えているかわからない夫婦は、こんなにも早くアルンを困らせた。いやアルンだけではなく、準備をしている全員が迷惑を被った。

「……まったく」

 思わず愚痴ってしまう。それほど両親の行動は読めず、我が道を行く状態。周囲が困っているということも理解しておらず、全て笑って済ませてしまう。だからこそ、ストレスが溜まってしまう。

 意を決し、アルンは両親を出迎えに行く。その足取りは重く、心の中では「会いたくない」という気持ちが強かった。しかし、来てしまったのだから仕方がない。追い出しもできないからだ。

 廊下ですれ違うメイド達の表情を一瞥すると、大半の者が真っ青な顔をしていた。流石に衝撃が強すぎたのだろう、中には悲鳴を上げるメイドの姿もあったが、長年勤めている者は違う。

 これも、肝が据わっている証拠か。淡々と仕事をこなしていたが、その動きにはぎこちなさが感じられた。あの二人に慣れるなど、あり得ないこと。もしあり得るとしたら、相当な人物だ。

 徐々に、声が大きくなってきている。どうやら好奇心旺盛のメイド達が、覗き見をしているようだ。しかしアルンの姿を見た瞬間、一斉に逃げ出し仕事場に戻っていった。