メイド達は、朝から大忙しかった。久し振りの帰宅に、掃除に気合が入っているようだ。その光景を暖かい視線で見ることができないのが、アルンであった。珍しく頭を抱え、苦しそうな唸り声を発していた。仕事ではこのような姿を見せないので、それだけ苦痛なのだ。
「そのようなことをなさっても、無理なものは無理です。素直に、受け入れるしかありません」
「わ、わかっている」
「でしたら、悩むことはありません」
「簡単に言ってくれるな」
あの強烈な両親の性格は、なんとなくであったがセシリアは知っていた。アルンの拒絶反応の意味を理解できないわけではないが、両親相手に逃げ隠れはみっともない。というより、失礼だ。
「今回は、ウィル様がいらっしゃいません。アルン様にしてみれば、安心できることだと思います」
「それがせめてもの救いだ」
ウィルが肺炎になった時、悲しむと同時に喜びを表現したアルン。その大きな理由は、ウィルを両親に会わせなくて済む口実ができたことだ。何だかんだで、アルンは両親より弟を取る。
それだけアルンは、両親を嫌っている。それは「精神的な嫌悪」といっていいものであった。
「何故、あのように呼ぶ」
「アルンちゃん」
「や、やめてくれないか」
「確かに、この呼び方は困りますね」
態と「ちゃん」付けをしたと思われるが、これは実際に行われていること。つまり、両親が息子の名前を呼ぶ時「ちゃん」をつけるのだ。アルンだけではなく、ウィルも同じように呼ばれる。
「20歳を過ぎている人間に、何故……その前に、嫌がらせか。何を考えているのか、わからないし」
「それは、愛している証拠でしょう」
「愛してくれるのは嬉しい。だが、別の方法でそれを表してほしいものだ。要するに、来るな」
「それは、無理でしょうね」
セシリアの容赦ない言葉の裏には「諦めろ」という意味合いが含まれていた。だが、アルンは足掻く。どうすれば良い方向へと転がるか必死に考えるも、なかなか良い答えは見つからない。


