「皆さん、楽しい夏休みを」

気が付けば、もう高校二年の1学期が幕を閉じようとしていた。短い簡素な校長先生の話も終わって嫌な通知表を受け取ると、今日の終業式は呆気なく終了した。

終礼を終わらすと、クラスメイト達は続々と教室を後にして行く。由希も部活だからと言って、先に教室を出て行ってしまった。

すると、それと同じようなタイミングで教室の扉がガラッと開く。


「心」

いつもの矢沢君が、あたしの名前を小さく呼んだ。「帰るぞ」とそれだけ言われ、あたしがそれに詰まったような返事をすると、矢沢君は眉をピクっと小さく動かした。

その後、あたしは矢沢君と一緒に学校を出て最寄りの駅を目指す。

「…あ。矢沢君」

「あ?」

「……お引越し、もう済んだんだよね?」

「あぁ、一昨日にな。荷物はまだ片付いてねぇけど」

「そっか。うん、なら良いんだ」

あたしが安心したような声でそう言うと、矢沢君は何故か静かに押し黙ってしまった。



「今度、お前も遊びに来い」

「え?いや、…遠慮しておこうかな」

「あ?俺の誘いを断るなんて良い度胸だな、お前」

「はっ?いや、だって」

「何だよ」

「…あ、それより、お前も来いって、もう誰か呼んだ事あるの…?」

「あ?何だお前」

「え?何?」

あたしが首をかしげてそう聞き返すと、隣を歩いていた矢沢君は突然「ふ、」と小さく笑って、

「お前それ、妬いてるみたいに聞こえるぞ」

「………はい!?」

憎たらしい笑みを零しながらそう言って来た。