由希が放った言葉に速水先輩は目をキラキラとさせて期待の眼差しであたしを見て来る。
「心ちん、一曲で良いから歌ってよー。俺と由希ちゃんだけ歌ってもつまらないし」
「…え、でも…」
「一曲だけ!心ちん歌上手いんでしょ?なら恥ずかしがる事なんてないじゃん」
「………」
小さい頃からよく歌が上手いねとは言われてきたけれど、今のこの状態で歌うなんてあたしにはレベルが高すぎる。好きな人の前で歌を歌うだなんて恥ずかしくて死んでしまいそうだ。
チラリと、横に居る久瀬先輩に視線を向ける。
「心ちゃん歌ってよ」
「えっ?!」
同じようなタイミングで此方に振り向いた久瀬先輩が眩しい笑顔でそんな事を言う。
「あたしも久し振りに心の歌声聞きたいなあ」
「うっ、じゃ、じゃあ…一曲だけ」
周りの念に押され、あたしは一曲だけ歌を歌うことにした。久瀬先輩に言われてしまったら断れるものも断れない。
由希があたしの一番お気に入りとする曲を送信したかと思うと、聞き慣れたメロディーが流れてきて、あたしは大きく息を吸い込んだ。

