「は、離して下さい」
「良いじゃん。カラオケでも行く?」
「いや、行きたくありません」
「………チっ」
小柄な男が小さく舌打ちをすると、今度は長身の男がズイっとあたしの顔を覗き込んで来た。あたしはそれにビクっとなって、一歩二歩と後ずさりする。長身の男はそれが気に食わなかったのか、眉間にギュッと皺を寄せた。
怖くて怖くて、心臓が止まりそうだ。ただでさえ気分が悪いのに、こんなやり取りいつまでもやっていられない。
「……っ」
あたしは勇気を振り絞って大きく息を吸い込むと、そこから一気に捲し立てた。
「は、離して下さい…っあなた達と遊ぶ気なんか全くありません……ど、どっか行ってください…!」
大声でそう叫ぶと、目の前の男たちはより一層眉間の皺を深めて血相を変えた。
「あぁっ?女のくせに生意気たたいてんじゃねぇぞっ」
「こいつ、マジムカつく。黙って連れてこうぜ」
「……え。いやっ、離して……っ」
そう言って強引に引っ張って来る腕を何とか振りほどこうと努力はしてみたものの、弱っている自分の力じゃ当然ビクともしなくて、怖くて、静かに涙が頬を伝った。
「は、離して下さい…っ、あたし、待ってる人が居るんで…っ」
「…さっきからそればっかりでうぜぇんだよ。そんなに離して欲しかったらなあ、さっさとお前の彼氏連れ…っ――――」
――――――――ゴンッ
一瞬も、束の間だった。
いきなり響いた鈍い効果音と共に、あたしの腕を掴んでいた小柄な男の頭に何処からか飛んできた缶ジュースが見事に命中した。

