「君、置いていかれたとか」
「この人混みだし。帰りたくなったのかもねー」
「……そ、そんな事…、ありません」
そんな事は多分絶対にない。矢沢君は自分勝手で最低な男だけど、そこまで身勝手な事はしない人だと思う。知り合って間もないあたしが、こんな事言うのも可笑しな話だけれど。
「へえー。相当彼氏の事信頼してるんだね」
いや、信頼はしていないと心の中で反論して、早くこの場から立ち去ってくれるのを待っていると、二人組のうちの一人が不意に「チっ」と舌打ちを落としてきた。
「あー、もう良いじゃん。いちいち面倒。…ねえ。ちょっとだけで良いから俺等と遊ぼうよ」
「……っ、」
さっき舌打ちを落とした小柄な男がそう言って、いきなりあたしの腕をグイッと引っ張って来る。あたしはその反動で、座ってたベンチから身体をベリっと剥がされる羽目になり、どうしようもない恐怖に冷や汗が背中を伝う。
「…そうだなあ。俺も、いつまでもかたよった笑顔保てる程器用な人間じゃねぇから、ちょっと俺達に付き合ってよ」
「……。…あの…、離し…っ」
今度は長身の男がそう言うと、不意に伸びて来た手にもう片方の腕をガシっと掴まれてしまった。
「………何して遊ぼっか?」
「………っ」
(…怖い怖い怖い)
―――――――――――――矢沢君。

