これが、あたしの彼氏です。【完】



その後、とても美味しかったナポリタンも食べ終わり、あたしと矢沢君は豪華なレストランを後にした。


「……あ。あたし、白クマ見に行きたい」

「あ?あぁ。別に良いけど」

白クマコーナーはこっちですと書かれた看板につい釣られ、矢沢君にそう言ってみると矢沢君は意外にもすんなりとそれに承諾してくれた。――――のだけれど。

「…チっ」

白クマコーナーへ辿り着く前に予想を遥かに超える人の量で、通り道が完全に塞がってしまっていたのだ。矢沢君はそんな状況にムシャクシャしたのか、また一つ小さな舌打ちを一つ零すと、いきなりあたしの腕を不意にガっと掴んできた。


「行くぞ」

矢沢君は低い声でそれだけ言うと、人と人の間をお構いなしにズカズカと通り抜けていってしまう。

「…うわ。ちょっ、矢沢君っ待って」

掴まれた腕が少し痛かったけれど、それでも矢沢君のおかげで人混みで逸れるような事は一切なかった。

そこからようやく尋常じゃない人混みの間を通り抜け、白クマコーナーの前まで無事到着した、のまでは良かったのだけれど。今度はこっちが少しやばいかもしれない。
ついさっきお昼を食べた直後って言うのと予想以上の人混みでの暑苦しさに胸の辺りがムカムカとしてきた気がする。


「おい、心。白クマ居んぞ」

「えっ、あ、うん」

「お前、ちゃんと見えてんのかよ。お前が来たいっつったから、」


(…ああ、駄目だ、ふらふらする)


「………や、矢沢君…」

「あ?」

まさに、あたしが矢沢君の名前を呼んだ、ちょうどその時だった。

「……気持ちわるい…」

少しだけ目まいがして、矢沢君の方にふらっとよろめいてしまった。


「おい。てめぇ、どうした」

「……気持ちが悪い」

「あ?…気分悪ぃのか」

「………うん」

「…チっ、…情けねぇ」

「ご、ごめんなさい」

「こっち来い」

矢沢君はそれだけ言うと、いきなりあたしの腕をグイっと引っ張り、そのまま足早に人混みを抜けたかと思うとあたしをひと通りの少ないベンチまで連れて行ってくれた。