「……い、いってきまーす」

「…あらあら心ちゃん。そんな格好で行くの?お母さんもっと…」

「良いの!これで!行って来ます!」

眉を下げてそう言ってくるお母さんにそれだけ返して、あたしは渋々玄関の扉を開けた。


あの矢沢君の有り得ない言葉から早数日。来なくて良いと願った今度の土曜日が、あっという間にやってきてしまったのだ。
あの後、あたしは当然断ったんだけれども結局は矢沢君優勢で、あたしは完全に言い負かされてしまった。

その時の事を思い出し、あたしは「はあ」と一つ溜め息を吐き捨てると、集合時間に遅れないように颯爽と自転車を走らせた。

その後、何とか無事に駅へ到着し自転車を駐輪場に置いてから、あたしは集合場所へと駆け足で向かった。辺りを見渡しながら、矢沢君が来てるかどうかを確認する。多分誘っておいて、先に来ていないって言うのはまずないと思いたい。そんなあやふやな確信を胸に、矢沢君をキョロキョロと探していると、

「……あ。あれかも」

矢沢君らしき雰囲気を醸し出している人物を発見した。
いつも見ている制服じゃなく私服を着ているとなるといまいち確信が持てず、一応矢沢君の傍まで行ってみようと思い、あたしはゆっくりとした足取りで矢沢君のところへ向かった。