「心、」
「え、あ、はい……」
それでも、ちゃんと名前だけは"心"って呼んでくれている。そんな矢沢君がやっぱりよく分からない。
「………何?」
「悪かった」
「え…?」
いきなり矢沢君に謝られる意味が分からなくて、あたしはそっと首を傾げる。
「や、矢沢君…?」
「……絢の事、聞かれた時…こっちが勝手にムシャクシャして、お前に当たって悪かった」
「…………」
歯切れの悪いような言い辛いような声でそう言った矢沢君にあたしはキュッと唇を噛み締める。
矢沢君の口から、絢さんの名前を聞いたのは、これで二回目だ。

