「返してよ…!」
「登録し終わったらな」
「い、良いよ。登録なんて」
「念の為だ。何かあった時の予防線。ってか連絡先くらい知ってて当然だろ」
「………」
多分それは、普通の恋人同士だったらの話だ。あたしと矢沢君は全く持って違うだろう。
その数分後、「お前のメアド長すぎ」って言葉と共にあたしの携帯が手元に帰って来た。当然のように電話帳のヤ行には、しっかりと矢沢心の名前が登録されてある。あたしのメアドも矢沢君の携帯に登録されていた。
ついに連絡先まで交換してしまったと言う事実にあたしはガックリと肩を落とした。
「メアド消すなよ」
「…………うん」
その後の電車の車内でも、あたしのテンションは一向に上がらず平行線上でブルーな気持ちのままだった。
あたしが降りる駅で矢沢君と別れて家に帰ってからも、携帯をギュッと握りしめ何度も矢沢君のメアドと電話番号を消そうと奮闘していた。
けれど、やっぱり削除する事はしなかった。というか出来なかったと言った方が正しいかもしれない。登録削除しましたなんて、もし矢沢君に知れた後が怖かったから。
「………はあ」
結局自分は怖がりの馬鹿野郎でしかないんだなと心の奥底で実感する。そもそもこんなあたしが矢沢君に堂々と反論出来る訳がなかった。恋愛経験はおろか、男の子ともあまり喋った事がないのに。
それなのに、あたしの一番の相手があの不良だなんて、幾らなんでも一線を飛び越え過ぎだと思う。

