そして、その日の放課後。
またしてもさらなる最悪の試練が、あたしを待ち構えていた。
今日も矢沢君に「帰ろうぜ」と言われ、あたしがそれを否定すると矢沢君はいきなりあたしのカバンをヒョイッと取り上げて、あたしは当然の如く自分のカバンを追いかけるハメになって、そんなやり取りが学校の最寄り駅まで続いたところであたしは矢沢君と帰路を共にしていることに気が付いた。なんという失態。
最寄り駅付近でなんとかカバンを返してもらうと、隣の矢沢君がそっと口を開いた。
「おい」
「は、はい」
「メアド教えろ」
「……え?」
「メアド」
「……」
腹の底から溢れ出しそうな声で、絶対に嫌だ…!と心の中で訴えた。メアドの交換なんて、冗談じゃない…。
「俺のも教える」
そう言った矢沢君に、いや要りませんなんて言える勇気もなく、「あの、別に。そこまでしなくても…」なんて遠まわしな言い方でお断りすると、
「彼女の連絡先知らないなんて、普通可笑しいだろ。それに知っときたいし」
なんて、どの口がそんな事ヘラヘラと言えるんだ、なんて思ってしまう返答が返ってきた。
「おら、さっさと携帯出せ」
「…あの。今日、携帯忘れました…」
「あぁ?ふざけんな。じゃあポケットから出てるそのストラップは何だよ」
「……あ」
「俺に嘘付く暇あったら、さっさと携帯出せ」
「………」
「黙ってんなら、勝手に登録すんぞ」
「え。あ…!ちょっと!」
ポケットからヒョイっと取られた携帯を取り戻そうと自分の身長より遥か上に掲げられた携帯へ思い切り背伸びをしてブンブンと手を伸ばした。
「登録されたくなかったら、この俺から取ってみろ」
「…………」
まるで、精神年齢小学生並みの子供みたいだ。

